地域ケアにおける精神的支援 

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 地域ケアにおける精神的支援 


原因不明で治療法未確立の疾患による身体的障害は、不安、抑うつ状態などの精神症状を起こしやすいが、また、逆に不安・抑うつ状態が続くと闘病意欲が低いまま経過し、その影響は身体的管理、予後にも及ぶことは明らかである.よって難病患者への援助には精神的支援が重要な要素をしめる。まず、難病及び薬剤の副作用による精神症状について整理し、次いで精神支援について述べる。


1.難病に伴う精神症状

薬剤の副作用による精神症状を神経・筋疾患と膠原病のなかからいくつか挙げる。


A.パーキンソン病

 パーキンソン病の患者によくみられるのは、憂鬱、不機嫌、無感情、自発性低下、決断力低下、行動・思考の緩慢などのうつ病に類似した状態である。この抑うつ状態は、神経学的な病因に基づくものの場合もあれば、二次的な反応の場合もある。抑うつ状態は、身体症状発現前または発症後早期から認められることが多い。うつ病としての病態が全面的に出てくる場合は、抗うつ剤の使用も考慮される。パーキンソン病の身体的症状は著変しなくても、精神症状は改善されることがある。身体的不活動が、精神症状に由来するものであれば、精神症状の改善に平行して、活動度もあがってくる。

 パーキンソン病は、しばしば痴呆が合併する。この症状として、やはり意志発動制限、無関心、緩慢な行動と思考がある。さらに仮面様顔貌、寡・無動、構音障害などの神経学的症状も加わって抑うつ状態のようにみえることがある。痴呆症状と抑うつ状態では、対処の仕方が異なるので、主治医・精神科医の判断の必要なことも多い。

 治療薬のドーパ剤の副作用による精神症状もある。錯乱性の幻覚症、抑うつ、不安、上機嫌反応、躁状態などがある。幻覚は、幻視が多い。ヒトや小動物の幻視が多い。その他、幻聴や変形視などもある。痴呆が合併していなければ、幻視体験を生き生きと鮮やかに語り、判断力を有していることが多い。情動興奮や妄想形成に至るものは少ない。日常生活に支障を呈するような行動異常のない場合、幻覚症や軽いせん妄状態を家族および本人が自発的に訴えてくることは少ないので注意を要する。副作用としての精神症状が強い場合は、ドーパ剤の減量の検討が必要で、主治医の診察を第一に考えるべきであろう。

B.神経ベーチェット病

 精神症状は、錯乱、せん妄状態、意識障害が急性発症する場合と、痴呆、人格変化などが緩慢に現れる場合がある。 記銘・記憶力障害を主とした痴呆症状、抑うつ感情、情意鈍麻による人格変化、ときに幻覚・妄想などが現れる。感情の不安定、易怒、易刺激性などもある。身だしなみに対する注意の低下・無頓着、多幸などの人格変化やあるいは子どもっぽくなるなどの退行が進行性にみられることがある。幻覚や幻聴が多く、体感幻覚や幻視もある。妄想は、被害妄想的なものが多い。


C.全身性エリテマトーデス(SLE)

 SLEは、膠原病のなかでも精神症状を合併しやすい疾患である。精神症状の発現は、身体症状の発現後に、その経過中に観察される場合が多い.その症状は多彩で、幻覚・妄想、抑うつ状態、躁状態、不安、神経衰弱状態、不眠、焦操、無言症、人格変化、感情不安定、拒絶症、自殺念慮・企図などである。また、昏迷やせん妄などの意識障害を示す急性発症の病像もある。

 SLEの精神症状は、その身体的障害の病態と同様の過程が直接脳に及んで起こすので、他の身体臓器の障害と平行して経過するとは限らない。しばしば、精神神経症状が病態の増悪を意味しているので注意が必要である。

 SLEは若い年齢で発症することも多いので、中・高齢期以後に発症する他の難病とは異なった心理学的影響に留意すべきである。若いときからの、身体的障害による活動範囲の制限、皮膚症状や満月様顔貌(ステロイド剤の副作用)等で対人関係面で気後れしたり、結婚・妊娠の問題など非常に重大な社会心理学的問題をはらんでいる。しばしば、主治医と円滑な対人関係を結べず、治療に支障を来たして病態増悪につながることもある。また、社会心理学的影響またはストレスが病態増悪の因子であることから、人間関係のとれるカウンセリング的な精神的支援が必要とされることがある。

 治療に使用されるステロイド剤の副作用に精神症状がある。躁状態が最も多く、その他に抑うつ状態、幻覚・妄想、自我機能障害等が認められる。精神症状のみで、SLEの病態増悪なのか、ステロイド剤によるものかを区別することは困難である。病態増悪であればステロイド増量を、副作用であれば減量を検討しなければならない。

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2.精神的支援

患者本人へのものと、システムとしての家族に対するものに分けて述べる。


A.患者本人への精神的支援

 疾患の性質上、ストレスから反応的に精神症状を起こしても不思議はない。また、障害の受容の問題も精神状態に影響する。難病患者の実態調査で、「病気への不安」「理解してくれる人がいない」「友人・相談相手がいない」「仕事・家事ができない」「生き甲斐がない」「家族に負担をかける」「経済的に苦しい」「闘病意欲を含めた意欲の低下」等の訴えの多いことが報告されている。これらが不安、心気症、抑うつ状態などにつながる。

 抑うつ状態となると、気分が落ち込み、意欲が低下し、外界への関心が低下し、不眠傾向となる。このようなことが、身体的障害と併せて、患者の社会参加を含めた身体的・精神的活動性を低下させていくことになる。その活動性低下が、精神症状の改善を妨げたり、症状増悪につながるなどの悪循環が形成される。

 これらの精神状態の場合、地域ケアに従事する人たちの精神的支援は、支持的アプローチが適当ではないか。患者が自分の身体的状態や自分を取り巻く周囲の状況の現実を検討して、可能なことと不可能なことをある程度はっきりさせることを図れるように支援する。 患者は、不安や抑うつ状態が強く、思い詰めた気持ちに圧倒されており、日常生活をどう過ごしてよいかわからなくなっている。患者は現実検討能力が衰え、置かれた状況を正しく吟味することのできない状態となる。そういうときに、患者の苦しみを聞き、一人では克服しがたい問題に一緒に取り組んだり、本当に実現可能なことや選択すべき道を検討することで、患者の不安の減少を図ることができる。

 さらに、患者本人が、自分の状態に対する不安や悩みを言語化できれば、精神的苦痛の軽減につながる。したがって、話をよく聞いてあげるという姿勢が重要である。


B.家族(関係)システムの観点からの援助

 長期的に介護を必要とする難病患者への精神的支援には、家族システムの観点からの援助も重要である。慢性に進行して難治性であるという疾患の特徴から、本人のみでなく家族介護者の生活が密接に関係を持つからである。

 家族も絶え間のないストレスと、介護による身体的・精神的疲労が蓄積すると、抑うつ状態を来しやすく、本人と同様に現実検討能力や判断力が低下し視野も狭くなる傾向となる。 療養生活のあり方で、本人と他の家族の間に矛盾がなければ比較的支援はしやすい。しかし、そこに矛盾がある場合は、本人を含めた家族のシステム、特に家族間の対人関係交流パターンの分析が必要となる。本人と家族の間に葛藤がある場合、援助者は葛藤の原因の"犯人探し"を行うことがよく見られる。本人または家族の中の誰かが悪いというのではなく、発病以来の本人および家族の疲労蓄積のなかでつくられたシステムが、機能的な対人関係のパターンを阻害していることが問題なのである。実際、一人を悪者としても、その悪者の変化を期待するのは多くの場合困難である。変化を期待すべきは家族システムである。このシステムが変わらないと、家族内の個人も変わることができない。

 患者家族の療養のあり方に対して、批判的メッセージを与えることではシステムの変化は期待できない。例えば、家族が患者に対して冷たい態度をとっていると感じる場合でも、「本人のためを思って自立への援助をしているのだ」という評価を伝えるというように、否定的なものを肯定的なものに変える再規定(リフレーミング)の方が、システムの変化に結びつきやすい。


C.さいごに
 
     
 地域ケアにおける対人サービス職種が患者・家族への援助をするには、身体的管理のみならず精神的支援においても、病初期から関わることが望ましい。その方が、障害の受容の問題に関しても主治医と連携をもった援助が可能となるし、家族介護者がまだ疲れ切っていない段階で、今後の家族システムの悪循環的な機能不全の予防ができるからである。

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