スタチン系薬剤はヒト血液脳関門の透過性を低下させ、白血球の遊走を抑制する:多発性硬化症との関連性
Statins reduce human blood-brain barrier permeability and restrict leukocyte migration: relevance to multiple sclerosis
I. Ifergan, K. Wosik, R. Cayrol, H. Kebir, C. Auger, M. Bernard, A. Bouthillier, R. Moumdjian, P. Duquette, and A. Prat
Neuroimmunology Laboratory, Center for Research on Brain Diseases, Centre Hospitalier de l'Universite de Montreal, CHUM Research Center, Quebec, Canada.
Annals of Neuroogyl 2006 Jul;60(1):45–55
背景
血液脳関門(BBB)と免疫細胞の血管内皮を介した遊走の調節異常は、多発性硬化症(MS)とその初期の臨床病型であるclinically isolated syndromeの病変形成に関連する初期の中枢神経系変化の一部である。スタチン系薬剤として広く知られている3-hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A(HMG-CoA)還元酵素阻害剤がMSの動物実験モデルで臨床症状を改善し、MSのガドリニウム増強病変数を減少させることを示した研究から、スタチン類の中枢神経系での抗炎症作用が証明された。
目的
スタチン類の免疫細胞に対する免疫調節作用は明らかにされているが、ヒトBBBの生理学的・免疫学的特徴への影響は解明されていないので、ヒトBBB由来の血管内皮細胞に対するスタチン類の直接的作用を調べること。
方法
スタチン類がヒトBBB由来の血管内皮細胞の生理学的および免疫学的パラメーターに与える影響を調べた。
結果
ロバスタチンとシンバスタチンは、ヒトBBB由来の血管内皮細胞で、イソプレニル化の過程の阻害によりウシ血清アルブミンと14C-ショ糖の拡散速度を50〜60%低下させたが、タイトジャンクションの構成分子であるオクルディン、VE-カドヘリン、JAM-1、zonula occluden-1およびzonula occluden-2の発現とは無関係であった。シンバスタチンとロバスタチンのin vitroにおけるBBBの透過性の低下能は同等であり、有効濃度の中央値(EC50)はそれぞれ9.5×10-8M、1.0×10-7Mであった。さらに、ロバスタチンとシンバスタチンは、ヒトBBB由来の血管内皮細胞で、ケモカインであるmonocyte chemotactic protein-1/CCL2とinterferon-γ-inducible protein-10/CXCL10の分泌を特異的に低下させることにより、clinically isolated syndromeおよびMSに由来する単球とリンパ球の遊走を著しく抑制した。
結論
本研究の結果は、以前報告されたMRI所見と一致しており、スタチン類はヒトBBBを介した分子トレーサーの拡散を低下させ、また免疫細胞の遊走を抑制することで、初期の多発性硬化症における有効性を示唆している。
コメント
以前よりHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)によるMSの臨床症状の改善が報告されていたが、これはスタチン類のBBB由来の血管内皮細胞に与える影響をin vitroで直接的に検討し、抗炎症作用の機序を証明した報告である。MSとclinically isolated syndrome(約80%はMSに移行すると言われている)は、中枢性髄鞘ミエリンの構成成分に対する自己反応性T細胞によって引き起こされる自己免疫疾患と考えられており、臨床的には寛解と再燃を繰り返すことが特徴である。BBBにより保護されている中枢神経においての傷害と改善の繰り返しの機序は不明な点が多いが、今回の結果より、間接的ではあるが引き金として炎症の関与が示唆される。
監訳・コメント:大阪府立急性期・総合医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生
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