筋萎縮性側索硬化症患者の病気の進行遅延と生存期間延長:筋萎縮性側索硬化症の自然史が変化しているのか?
Slower disease progression and prolonged survival in contemporary patients with amyotrophic lateral sclerosis: is the natural history of amyotrophic lateral sclerosis changing?
A. Czaplinski, A. A. Yen, E. P. Simpson, and S. H. Appel
Department of Neurology, Baylor College of Medicine, Houston, USA.
Archives of Neurology. 2006 Aug;63(8):1139-43
背景
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に多大な努力が払われてきている。しかし、治療薬の進歩や疾患管理方法の変化のために病気の進行が遅延するようになったのか、生存期間が延長してきているのかについてはこれまで明らかにされていない。
目的
過去20年の間にALS患者について、生存期間が伸びてきているのか、病気の自然史が変化してきているのか、について明らかにすること。
方法
1984年1月1日から1999年1月1日の間にALSと診断された患者647例(過去の症例群)と1999年1月2日から2004年11月1日の間にALSと診断された患者394例(最近の症例群)について、病気の進行状況をAppel ALSスコアが20点増加するまでの期間として評価判定した。生存期間の延長についてKaplan-Meierの生命表法を用いて分析を行った。生存期間に関係する他の要因を調整するために、多変量解析にはCoxの比例ハザードモデルを用いた。
結果
発症してから死亡までの期間の中央値は、過去の症例群では3.22年(95%信頼区間3.04〜3.41年)、最近の症例群では4.32年(95%CI 3.81〜4.84年)であった。最近の症例群の生存期間の方が長かった(p<0.001)。病気の進行状況について、Appel ALSスコアが20点増加するまでの期間でみると、過去の症例群では約9ヵ月(95%CI 8〜9ヵ月)、最近の症例群では約10ヵ月(95%CI 9〜13ヵ月)であり、最近の症例群の期間の方が長かった(p<0.001)。生存期間の差に影響する、年齢、性別、診断遅延、発現部位、ベースラインの努力肺活量、およびAppelスコアの交絡因子を調整してみるために行ったCox比例ハザードモデルからも、最近の症例群における生存期間の方が長かった。生存期間には、ALSに対する治療(リルゾール、非侵襲的人工換気、経皮的胃瘻造設術)の有無とも関連がみられなかった。
結論
過去のALS患者と比べて最近の患者の生命予後の方が有意に改善していた。この予後の改善にはALSに対する治療方法の進歩とは関連がみられなかった。ただし、合併症に対する治療の進歩により生存期間が伸びてきている可能性が考えられる。本研究から、ALSの病気の予後が変化し、最近のALS患者ほど軽症化してきている可能性が示唆された。この原因については、ALSの基本的な自然史の変化によるものか、分析できた他の要因が関与しているためなのか、さらに研究を行っていく必要がある。
コメント
本研究にはいくつかの限界がある。たとえば、医療施設における研究であり、受療までの条件が不明である点が指摘できる。生存率の分析は、観察を始める起点の取り方により大きく結果が変わってくる。本研究のように過去20年間の推移をみる研究では、受療行動に影響する医療制度の変化があるだけでなく、医学や診断学の進歩により診断までの時期が早まるだけでも一見して患者の予後がよくなったようにみえる。また、医療以外の食生活や生活水準の改善が寄与している可能性も考えられる。そうであれば、医療だけでなく生活ケアが大切であることを示唆しているのかもしれない。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 予防環境医学 高鳥毛 敏雄先生
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