筋萎縮性側索硬化症患者における抑うつ症状と不安症状の有病状況とその管理
Depression and Anxiety in Individuals with Amyotrophic Lateral Sclerosis:Epidemiology and management.
A. Kurt, F. Nijboer, T. Matuz, A. Kubler
Department of Neurology, University of Ulm, Ulm, Germany.
CNS Drugs. 2007;21(4):279-91.
背景
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、治療法のない致死的な運動ニューロン疾患である。ALSが不治の病であることからALS患者の抑うつや不安症状の有病率が高いことは予想できる。これまでの文献からはALS患者の抑うつ症状の有病率は0〜44%と示されているが、DSM-IV指標を使った面接調査研究から、9〜11%という高い割合であることが報告されている。またALSにおける不安症状の有病率は0〜30%である。
ALSのこれら一般症状の管理をどうすべきかに関する臨床研究はほとんど行われていない。治療のガイドラインは症例報告に基づくものが主であり、対症療法的なものしかない。ALS患者の治療目標は生活の質(QOL)を改善することにおく必要がある。ALS患者のQOLは身体機能で決定されているわけではなく、また病気の進行とともに低下するものでもなく、患者のQOLは、抑うつ症状とは負の相関関係にあることが示されている。抑うつ症状は、ALS患者の生命予後に関わる因子と独立してQOLに影響を与えている重要な要因であると考えられる。このため、ALS患者の抑うつ症状に対しては早期に診断し、適切に治療管理をしていくことが必要である。
目的
ALS患者における抑うつ症状および不安症状の有病状況を調査し、薬物療法と心理療法の意義を明らかにする。
方法
過去の文献のレビューおよび自験例に分析に基づく。
結果
ALS患者の抑うつ症状の薬物療法については薬剤の比較臨床試験は行われていないが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)および三環系抗うつ薬(TCA)が有効であることが専門医の間では合意が得られている。偽唾液分泌過多または不眠症の治療には抗コリン作用をもつTCAが処方されている。不安症状は抗不安薬で通常治療されているが体系的な研究は行われていない。
心理療法としては認知行動療法が推奨されている。これらの介入を始めには適切な行動分析が必要である。コーピング、教育評価技術の教育が含まれている。抑うつ症状および不安症状の治療には、認知行動療法と薬理学的介入療法の両方が必要である。薬物療法については、その有効性が正確に評価されるべきである。
結論
これまで、心理療法を行ったうえで薬物療法を行う方がよいのか、または薬物療法を行ったうえで心理療法を付け加える方がよいのかを明らかにした臨床研究は行われていない。ALSの中でうつ病と診断された高齢患者の治療研究から、心理療法と薬物療法の両療法を組み合わせて行うことが抑うつ症状および不安症状の改善に有効であると示唆されている。
コメント
ALS患者には身体管理だけではなく、精神的ケアが重要であることを示す論文である。しかし、抑うつや不安のメカニズムは明らかにはされていない状況にある。一般的な抗うつ剤、抗不安剤が有効なようであるが、きちんとした評価研究は行われていないようである。ALS患者のQOL向上のためには、抑うつ、不安症状の管理はきわめて重要である。このためにALS患者の治療には精神科を含めたチームケア体制が必要と考えられる。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 予防環境医学 高鳥毛 敏雄先生
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