運動ニューロン疾患の死亡率データによる筋萎縮性側索硬化症の地理的分布
Geographic distribution of amyotrophic lateral sclerosis through motor neuron disease mortality data.
Uccelli R, Binazzi A, Altavista P, Belli S, Comba P, Mastrantonio M, Vanacore N.
Section of Toxicology and Biomedical Sciences, National Agency for New Technologies, Energy and Environment (ENEA), Rome, Italy.
European Journal of Epidemiology. 2007;22(11):781-90.
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、成人にみられ、発症から死亡まで約2〜3年という希有で重篤な神経疾患である。明確な原因は特定されていないが、遺伝的ならびに何らかの環境的要素が関与した多因子性の疾患であると考えられている。イタリアや他の多くの国々で1980年以降に死亡率の上昇が認められている。本研究の目的は、運動ニューロン疾患(MND)死亡率のレベルが高い単独の市町村およびクラスターを検出することであり、そのためにイタリアにおける1980〜2001年のALS死亡率の分布を検討した。ALSは、ICD-9(国際疾病分類)のコード335.2に定められているMNDの大部分(85%)を占める疾患である。MNDの死亡数および標準化死亡比(SMR)は、ENEAの死亡データベースシステム(データソース:イタリア国家統計局(ISTAT))を用いて、全国死亡率を基準としてイタリアの全市町村について算出した。次いで、市町村のクラスターを検出するため、空間解析を行った。イタリアの8,099市町村のうち、132市町村では期待値よりもSMR値が高かった。さらに、相対リスク(RR)が有意に高い16クラスターが特定されたが、そのうち12クラスターは単一市町村のみに限局していた。クラスターに含まれていたのは、SMRが高かった市町村のうち、22市町村のみであった。結論として、クラスターとSMRの2つの疫学的方法を用いた研究は、疾患の地理的分布を明らかにするうえで相補的であることが示された。また、ALSに関連する危険因子を特定するための分析的研究を優先的に進めるべき地域を、暫定的に初めて示してくれるものであった。
コメント
運動ニューロンの変性疾患は難病の中の難病である。その原因は医学が進歩した現在も明らかにされていない。本論文は、地理的な分布を解析することにより疾患のリスクの高い地域を明らかとし、それをもとにリスクの高い地域において運動ニューロン変性疾患の発症に関するリスク要因を明らかにする研究を進めようとしているとの報告である。遺伝子解析を行うことにより原因を明らかにする研究が全盛期の中で、病気の地理的な分布を調べ、さらに病気の原因と思われるものを研究し、疾病予防につなげようとする手法は地味であるが、重要な研究であるように思われる。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 健康政策学 高鳥毛 敏雄先生
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