多発性硬化症と大麻
認知機能および精神医学的研究
Multiple sclerosis and cannabis
A cognitive and psychiatric study
Omar Ghaffar and Anthony Feinstein
Neurology. 2008 Jul 15;71(3):164-9
背景
大麻を使用している多発性硬化症(MS)患者は少数とはいえかなりの数にのぼるが、精神機能への影響を調査した研究は実施されていない。今回われわれは、市中でのMS患者の大麻使用と情動および認知との相関について報告する。
方法
MS患者連続140例に対し、DSM-IV第1軸障害(SCID-IV)のための構造化臨床面接を行い、大麻使用の詳細について記録した。Symbol Digit Modalities Test(SDMT)、処理速度指数、作業記憶、および注意力維持といったMSのための神経心理検査バッテリーを用いて認知機能を評価した。
結果
過去1カ月以内に大麻を使用していた被験者10例(7.7%)を、現在の大麻使用者と定義した。非大麻使用者(130例)に比べ、大麻使用者は低年齢であった(P=0.001)。現在の大麻使用者10例それぞれに対し、大麻を使用していないMS被験者4例ずつを、人口統計学的変数、および経過、罹病期間、再発、治療などの疾患の変数でマッチさせた(対照標本は合計40例)。群間比較では、精神医学的診断のためのDSM-IV基準に合致する患者の割合は、大麻使用者の方が高いことが認められた(P=0.04)。さらにSDMTでは、大麻使用者ではマッチさせた対照者と比較して、平均処理時間が遅く(P=0.006)、反応パターンに差が認められた(群×時間の交互作用、P=0.001)。
結論
大麻吸入は、多発性硬化症患者の精神機能障害、特に認知機能障害に関連する。この関連性が示すものを明らかにするには、さらなる研究が必要である。
コメント
大麻は、その機序は確定されていないが多発性硬化症(MS)の痛みやけいれんに有効であるとされ、ヨーロッパやアメリカを中心に、一部の国では合法的使用が認められている。一方で大麻が幻覚等の精神症状を引き起こすことはよく知られており、本論文は代替医療的に大麻を使用しているMS患者が非使用MS患者と比較し、高次脳機能障害、特に視覚性注意障害と作業記憶障害を呈することが多いことを指摘したものである。今回は例数が少ないことや、元来二次性進行型MSでは軸索変性による高次脳機能障害の併発率が高いとされており、合法的な医療大麻使用においてもよりいっそうの検討が必要である。日本では、現在のところ医療上の使用も禁止されていることから、MSでの大麻使用の論文は非現実的かもしれない。しかし、今後緩和医療においてもその合法的使用が論議される可能性の高い大麻の医療使用に関する論文であり、あえて紹介した。
監訳・コメント:大阪府立急性期・総合医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生
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