プライマリケアの場における関節症の自己管理プログラムの経済評価
Economic evaluation of arthritis self management in primary care
Patel A, Buszewicz M, Beecham J, Griffin M, Rait G, Nazareth I, Atkinson A, Barlow J, Haines A.
Centre for the Economics of Mental Health, Institute of Psychiatry, King's College London, London
BMJ. 2009 Sep 22;339:b3532. doi: 10.1136/bmj.b3532
目的
プライマリケア(一般医)の場で関節症の患者に対し自己管理プログラムを提供することと小冊子を使った患者教育を行うことに、費用対効果があるのかについて評価すること。
デザイン
無作為化比較試験を利用して、医療的ケアおよび社会的ケアのみならず社会の総合的な側面から、費用対効果分析および費用対効用分析を行う。
調査対象
プライマリケアを担う一般医が診療しているイギリス国内の74施設である。
分析対象
股関節または膝関節の変形性関節症を有し、疼痛または障害を伴う関節症を有する50歳以上の患者812例である。
介入内容
対象者を無作為に介入群と対照群の2つに割り付けた。介入群に対しては関節症の自己管理プログラムを6回提供し、さらに小冊子を使った患者教育を行った。一方で、対照群に対しては、小冊子を使った患者教育のみの標準的ケアを提供した。
主要評価項目
12カ月間の医療ケアと社会的ケアの費用の合計、および社会の総合的な費用の両面から評価を行った。QOL(SF-36、主要評価項目)、EuroQolビジュアルアナログスケール、および質調整生存年数(QALY)に基づいた費用対効果(増分費用効果比および費用効果受容曲線)の評価を行った。
結果
介入群の12カ月間の医療ケアと社会的ケアの費用は、対照群と比較して101ポンド多くかかった(95%信頼区間3〜176ポンド)。これは、関節症の自己管理プログラムを提供したことにより増加した費用が、他の削減費用と十分に相殺されなかったためであった。社会の総合的費用(医療ケアと社会的ケアを併せた費用の13倍以上である)、および他の評価項目については有意差がなかった。医療ケアと社会的ケアの費用について、QALY値で評価すると介入群の方が対照群より劣っていた(有意差はないものの、介入群で低かった)。他の評価項目については、介入群の方が対照群より費用効果比では279〜13,473ポンド勝っていた。社会の総合的費用からみると、介入群では対照群よりも費用が少なく、QALY以外の評価項目のすべてで良好な結果が得られた(いずれも有意差がなかったが)。そのため介入群の方が優れていると思われた。関節症の自己管理プログラムを使った場合、SF-36評価スケールが1点上昇すると費用対効果の点では12〜97%(閾値0〜1,000ポンド)の利点があると推定された。しかし、この結果が、臨床上本当に意味があるのかについては明らかにはできていない。ビジュアルアナログスケールおよびQALYを使った指標では費用対効果は低かった。
結論
イギリスの国立医療技術評価研究所(National Institute for Health and Clinical Excellence)により進められた研究から、現行の費用基準およびQALY閾値で評価すると、プライマリケアの場において関節症の自己管理プログラムを使うことによる費用対効果は認めることができないという結論であった。もっと多くの費用を投入するか、また他のQOL指標を使って評価すれば費用対効果があるとの結論が得られるかもしれない。しかし、本研究からは、あらゆる臨床の場で、保健省が患者に提供する専門家プログラムとしては、関節症の患者に対する自己管理プログラムは費用対効果の上では推奨できないとの結論であり、今後、他の諸条件を考慮してより厳格な評価を行う必要があることが示唆された。
コメント
イギリスは、税金を使ってプライマリケアや病院の医療サービスを提供している。そのために、国民に対する医療提供内容に対して、臨床現場でどのような治療法や治療プログラムが有効なのか、また費用対効果が高いのかについて強い関心がもたれている。このような背景から、国内に国立医療技術評価研究所(NICE)が設けられ、世界中の臨床文献をシステマティックレビューし、国内の医療施設における患者に対する医療サービスの治療指針、ガイドラインがつくられて、それに基づいて医療が提供されている。本研究は、イギリスで第一線の医療を担っている一般医(GP)が行う治療プログラムとして、関節症患者に対する自己管理プログラムの費用対効果を評価しようとしたものである。イギリスの医療制度の中で必要とされている研究である。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 健康政策学 高鳥毛 敏雄先生
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