炎症性腸疾患のためにチオプリン系薬剤を服用している患者におけるリンパ増殖性疾患:前向き観察コホート研究
Lymphoproliferative disorders in patients receiving thiopurines for inflammatory bowel disease: a prospective observational cohort study
Beaugerie L, Brousse N, Bouvier AM, Colombel JF, Lémann M, Cosnes J, Hébuterne X, Cortot A, Bouhnik Y, Gendre JP, Simon T, Maynadié M, Hermine O, Faivre J, Carrat F; CESAME Study Group.
Department of Gastroenterology, Assistance Publique-Hôpitaux de Paris (AP-HP), Hôpital Saint-Antoine, Université Pierre et Marie Curie Paris-VI, Paris, France
Lancet.2009 Nov 7;374(9701):1617-25.
背景
炎症性腸疾患のためにチオプリン系薬剤を服用している患者においてはリンパ増殖性疾患リスクが上昇するとの報告があるが、これまでの研究報告の結論は一致していない。そこで、チオプリン系薬剤服用者でリンパ増殖性疾患リスクが高いかどうかについて前向き観察コホート研究により評価した。
方法
消化器専門医680名によってフランスの全国的コホートに登録された炎症性腸疾患患者19,486例を分析対象とした。疾患の内訳は、クローン病患者11,759例(60.3%)、潰瘍性大腸炎または分類不明炎症性腸疾患患者7,727例(39.7%)であった。これらの患者について、消化器専門医により観察期間中の免疫抑制療法、がんの発症、および死亡についての情報の報告を得た。リンパ増殖性疾患のリスクを、チオプリン系薬剤の服用状況別に評価した。追跡期間の中央値は35カ月(四分位範囲29〜40カ月)であった。
結果
観察開始時点で、チオプリン系薬剤について5,867例(30.1%)が服用中、2,809例(14.4%)が中止しており、10,810例(55.5%)は服用歴を有していなかった。追跡期間中に新規にリンパ増殖性疾患と診断されたのは23例であった。1例がホジキンリンパ腫、22例が非ホジキンリンパ腫であった。リンパ増殖性疾患の1,000患者・年あたりの発症者は、チオプリン系薬剤を服用していた患者で0.90(95%CI 0.50〜1.49)、中止した患者で0.20(0.02〜0.72)、服用歴のない患者で0.26(0.10〜0.57)であった(P=0.0054)。チオプリン系薬剤を服用していた患者と服用歴のない患者を比較した場合、リンパ増殖性疾患発症の多変量を補正後のハザード比は5.28(2.01〜13.9、P=0.0007)であった。チオプリン系薬剤を服用していた患者におけるリンパ増殖性疾患の大部分では、その病理組織変化は移植後の患者にみられるリンパ増殖性疾患と同様のものであった。
解説
炎症性腸疾患のためにチオプリン系薬剤を服用している患者では、リンパ増殖性疾患の発症リスクが高い。
コメント
クローン病、潰瘍性大腸炎などの難病で闘病して、免疫抑制剤の投与を受けている者も多くいる。本論文は、この疾患の治療薬として使われているチオプリン系薬剤により、リンパ増殖性疾患の罹患率が高くなるとのこれまでの報告について、疫学的に信頼性の高いコホート研究の手法を用いて明らかにしようとしたものである。リスクが高まるとの結果であったが、このリスクが高くなることが患者の治療による便益との間の関係についてどう評価すべきかを示しているものではない。薬剤には副作用がある。本論文は、少なくとも患者の治療にあたる医療者に対して投薬にあたって注意を促すものである。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 健康政策学 高鳥毛 敏雄先生
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