ベルギー・フランドル地方の医療現場における安楽死の報告状況:報告症例と報告されなかった症例の横断的調査分析
Reporting of euthanasia in medical practice in Flanders, Belgium: cross sectional analysis of reported and unreported cases
Smets T, Bilsen J, Cohen J, Rurup ML, Mortier F, Deliens L.
End of Life Care Research Group, Vrije Universiteit Brussel, Brussels, Belgium.
BMJ. 2010 Oct 5;341:c5174. doi: 10.1136/bmj.c5174.
目的
安楽死に関する連邦対策評価委員会に対する安楽死症例の報告率を推定すること、および報告症例と報告されなかった症例の特徴を比較検討すること。
デザイン
横断的調査による分析
地域
ベルギーのフランドル地方
対象
2007年6月1日から同年11月30日までの死亡例から、対象を層別無作為抽出し、死亡診断書を書いた医師を対象として、死亡に至るまでの終末期の意思決定に関する質問票を送付した。
主な評価方法
安楽死に関する連邦対策評価委員会への安楽死症例の報告率、医師が安楽死症例を報告しなかった理由、安楽死としての報告症例とされなかった症例との医師・患者の特徴との関係、医師による寿命の短縮期間、医師による終末期の患者としての意思決定の判定状況、および報告症例と非報告症例に対する医療的ケアの違い。
結果
調査への回答率は58.4%(該当症例6,202例中3,623例)であった。フランドル地方における2007年の安楽死症例の推定総数は1,040例(95%信頼区間[CI]970〜1,109)であり、全死亡例のうちの1.9%(95%CI 1.6〜2.3%)が安楽死と推定された。安楽死と推定された症例の約半数(1,040例中549例[52.8%、95%CI 43.9〜60.5%])が、連邦対策評価委員会に報告されていた。医師が安楽死に判断している症例の場合の報告率は、93.1%(72例中67例)であった。安楽死による寿命の推定短縮期間が1週間未満の場合には、それよりも長い場合に比べて安楽死症例としての報告率が低かった(37.3% 対 74.1%、P<0.001)。報告されなかった症例への医学的な対応は、報告された症例に比べて概して慎重さを欠いたものであった。また報告されていない症例では安楽死の要望書はない場合が多く(口頭のみでの要望が87.7% 対 17.6%、P<0.001)、他の医師や緩和ケアを専門とする医療者への相談も少なく(それぞれ54.6% 対 97.5%と33.0% 対 63.9%、いずれもP<0.001)、終末期の処置としてオピオイドあるいは鎮静剤が使用されている者が多く(92.1% 対 4.4%、P<0.001)、薬剤が医師ではなく看護師によって投与されている者が多かった(41.3% 対 0.0%、P<0.001)。
結論
安楽死に関する連邦対策評価委員会に報告されているのは安楽死症例の2例に1例であった。報告しなかった医師の大部分は、自分の行った行為が安楽死ではないと考えていた。安楽死の合法化について議論されている地域においては、医師による適切なケアの提供と医師の報告義務とを実現可能とする手立てを講じることも同時に考慮すべきであると思われる。
コメント
難治性の疾患で余命が限られている場合、医療的にどうケアをしていくのかは大きな課題である。わが国でも安楽死を認めるかどうかについて検討はされているが、現実には制度としては成り立っていない状況にある。本論文は、国レベルで安楽死の法制度が整えられ安楽死を報告させる仕組みを有するベルギーにおいて、安楽死の報告制度がどの程度定着し、安楽死として報告されることにより患者のケアにどのような相違が生じているのかについての実態を把握するために行われた調査報告である。安楽死として報告されている症例の方が適切なケアを受けているとの報告からは、安楽死の法制化により終末期ケアを、患者にとっても医療者にとっても満足できるものとすることにつながっているとの結果であった。この報告からすると、わが国でも人生の最期を満足できるものとする制度を真剣に議論することが必要となってきているように思われる。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
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