英国における輸入される潜在性結核に対する移民のスクリーニング:多施設共同コホート研究および費用効果分析
Screening of immigrants in the UK for imported latent tuberculosis: a multicentre cohort study and cost-effectiveness analysis
Pareek M, Watson JP, Ormerod LP, Kon OM, Woltmann G, White PJ, Abubakar I, Lalvani A.
Department of Infectious Disease Epidemiology, Imperial College London, London, UK.
Lancet Infect Dis. 2011 Jun;11(6):435-44. Epub 2011 Apr 20.
背景
英国では結核の届出者数が増加してきている。これは、海外出身の移民の症例の増加によるものである。移民の結核のスクリーニングをどうするのかは英国の結核対策の大きな課題となっているが、国レベルの対策指針の策定にあたって、移民における潜在性結核感染の有病率とリスクファクターに関するデータが不足している。
目的
移民の結核スクリーニングにおいて対象とすべき集団を特定し、費用効果を評価するために、英国に入ってくる移民に対してスクリーニング検査を行い、潜在性結核感染の有病率を明らかにすることを目的とした。
方法
英国の3カ所の施設(2008〜2010年)において、35歳以下の移民に対し潜在性結核感染者のスクリーニングをするためにインターフェロンγ放出アッセイ(interferon-γ release-assay:IGRA)を行い、その検査結果と人口統計学的データを用いて、費用効果分析を行った。潜在性結核感染に関連する因子の評価はロジスティック回帰分析を用いて、移民の出身国での結核発生率の様々なレベルに従ったスクリーニングの成果と費用効果については意思決定解析モデルを用いて算出した。
結果
1,229人の移民に対してIGRAを用いたスクリーニングを行った。245人が陽性(20%)、982人が陰性(80%)、2人が判定保留(0.2%)であった。陽性に関連する要因として、移民の出身国の結核罹患率が高い(P=0.0006)、男性である(P=0.046)、および年齢(P<0.0001)が独立して選択された。移民に対するスクリーニング検査をただ行うだけでは、潜在性結核感染者の71%しか検出できていない可能性がある。最も費用効果が高い戦略として2つが考えられた。1つは結核罹患率が250を超える国からの移民に対してのみスクリーニングを実施することである。この方法では、結核患者1人あたりにつき発症を予防するために約230万円かかる。もう1つは罹患率が150を超える国(インド亜大陸を含む)の移民に対してスクリーニングを実施することである。後者の場合は、感染している移民の92%が検出され、10万人あたり29例の患者の増加を予防することができ、患者1人の発症予防に約270万円かかる。
考察
潜在性結核感染のスクリーニングの費用効果を高くするには、潜在性結核を有する割合の高い移民に対し限定して実施することである。これにより、将来にかなりの数の活動性結核患者の発生を予防することができると考えられる。
資金提供
Medical Research Council and Wellcome Trust.
コメント
結核は世界的には潜在感染者の多い疾患である。わが国でもまだ1千万人以上の潜在感染者がいると言われている。一方で、近年の免疫学の進歩は著しい。免疫学の進歩に伴い免疫抑制作用の強い生物製剤が登場してきている。これらの生物製剤は、難病患者の病気の治療やQOLの向上において福音となっている。しかし、潜在性結核感染者にとっては結核発症につながるマイナス面もあり、警戒されている。これに対し、免疫学の知見を結核感染診断に応用した検査キット、たとえばQFTなどの開発と実用化も進んできている。本研究は、結核の罹患率が低くなった英国に、罹患率の高い国からの結核の流入を防ぐために免疫診断法が有効かどうかについて検討した報告である。わが国では、移民のスクリーニング検査としてよりも、国内の潜在性結核感染者のスクリーニング検査として、結核対策にどう活用していくかが重要かもしれない。わが国の近隣の中国、韓国、フィリピンなどは結核の罹患率が高く、近い将来に英国と同様の問題に直面する可能性がある。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
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