エボラ出血熱:国際社会の一致団結できない活動がもたらした失敗
Ebola: a failure of international collective action
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Lancet. 2014 Aug 23;384(9944):637.
ギニアのゲケドゥ在住の2歳男児が2013年12月6日に罹患したことが人類史上最大のエボラ出血熱のアウトブレイクのはじまりであった。8月中旬時点で2,240例の感染例と死亡者1,229例が報告されている。現地はわずかな医療職員、少ない機器、および設備が不十分な施設などの極めて脆弱な医療体制にあり外部からの援助なしでは制御が不可能な状態となっている。国境を越えて感染者が移動しており感染の封じ込めも困難を究めている。
国境なき医師団(MSF)はすでに6月24日に自分たちだけで制御ができない緊急事態であると声明を出していた。しかし、WHOの動き出しが遅かった。WHOは7月31日に71,000,000米国ドル資金と西アフリカへの数百人の追加人員派遣を求める合同対応計画を出し、8月8日に国際保健規則に基づく緊急委員会(International Health Regulations Emergency Committee)を開催した。そしてようやく「PHEIC:国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」であると宣言を出した。PHEICは世界的大流行になる可能性があるときに発せられるものであるが、今回は先進国に強い関心を持ってもらうために出されたものである。
WHOは近年厳しい予算削減に見舞われ健康危機やアウトブレイクに対応する予算が半減されていた。エボラ出血熱に対するワクチンまたは治療薬は存在していない。もし高所得国において多数の人々がエボラ出血熱に感染・発病していたならばワクチンの研究と開発は製薬会社にとって魅力的なものであり、すでにワクチンが存在していたかもしれない。
英国公衆衛生専門職教育認定機関(the UK Faculty of Public Health)長のジョン・アシュトン博士は「公衆衛生対策に儲け主義が入ってきており道徳的な破綻が生じてきて、倫理的および社会的な枠組みがないことが今回の大流行に影響している」と述べている。アウトブレイクはまだ3~6ヵ月は続くと推定されている。国際社会はアウトブレイクを終息させるために集団的責任と世界的な連帯を示さなければならない。国際社会の協力体制がなされなかったことが前例のない規模の大惨事を西アフリカに拡大させたのである。
コメント
天然痘の根絶がなされてから貧困国の感染症の流行に先進国は無関心となっていた。鳥インフルエンザが東南アジアで流行してもその対策に世界は結束できずにいた。しかし、2003年にSARSが流行したことにより、世界のほとんどの国がWHOの国際保健規則(IHR2005)に批准し、世界の国々が結束して助け合う体制ができたと思われていた。今回のエボラ出血熱発生に関して先進国は自分の国に波及する可能性が低いとわかると傍観者となり、民間団体の「国境なき医師団」任せにする事態となっていた。ワクチンや医薬品の開発も先進国の病気でないと儲からないため進まない状況にあることも明らかにされた。英国のアシュトン氏の儲け主義で国際保健は成り立つのかとの指摘はもっともである。これで世界の人々の生命と健康は守れるのであろうか。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
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