ベーチェット病 Behcet's disease は、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症疾患である。トルコのイスタンブール大学皮膚科 Hulsi Behcet 教授が初めて報告したのでこの名がある。
病因は不明だが、有病率に地域差があることや昭和30年以後急増したことなどから、汚染物質(有機クロール、有機リン、PCB、アルミニウム、マンガン)の影響を考える人がいる。また、ヒト白血球抗原(HLA-BW51)と強い相関を示すことから、遺伝的素因を考える学者もいる。
1. 疫学
本症は日本を最多発国とし、中近東、地中海沿岸諸国によくみられる。
性差は従来、男性に多いといわれていたが、最近の調査ではほとんど差はないようである。ただ、男性のほうが重症化しやすく、内臓病変を作りやすいようである。とくに、眼病変は男性に多く、しがたって、失明も男性に多くみられる。
発病年齢は、男女とも30歳前半にピークを示す。2. 臨床症状
ベーチェット病の主な臨床症状の出現頻度を表1に掲げる。
(1)主症状
●口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍:口唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形の境界鮮明な潰瘍ができる。これはほぼ必発である(98%)。また初発症状としても重要である。
●皮膚症状:下腿伸側に結節性紅斑様皮疹がみられる。また“にきび”に似た座瘡様皮疹が顔、頸、胸部などにできる。皮下に血栓性静脈炎がみられることもある。皮膚の被刺激性が亢進するので、“かみそりまけ”を起こしやすかったり、注射や採血で針を刺したあと、発赤、腫脹、小膿疱を作ったりする(針反応)。
●外陰部潰瘍:男性では陰のう、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられる。
●眼症状:本症でもっとも重要な症状である。ほとんど両眼が侵される。前眼部病変として虹彩毛様体炎が起こり、羞明、瞳孔不整がみられる。後眼部病変として網脈絡膜炎を起こし、失明に至ることがある。
(2)副症状
●関節炎:膝、足首、手首、肘、肩などの大関節が侵される。非対称性で、変形や強直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、慢性関節リウマチと異なる。リウマチ因子も陰性である。
●血管病変:本症で血管病変がみられたとき、血管型ベーチェットという。圧倒的に男性が多いといわれている。動脈、静脈ともに侵されるが、静脈系の閉塞がもっとも多く、部位では上大静脈、下大静脈、大腿静脈などに好発する。次いで動脈瘤がよくみられる。
●消化器病変:腸管潰瘍を起こしたとき腸管型ベーチェットという。やはり男性に多くみられる。腹痛、下痢、下血などの臨床症状を示す。部位は回盲部が圧倒的に多く、その他、上行結腸、横行結腸にもみられる。潰瘍は深く下掘れ、穿孔して緊急手術を必要とすることもある。
●神経病変:神経症状が前面にでる病型を神経ベーチェットという。難治性で、もっとも予後不良である。これも男性に多いのが特徴である。ベーチェット病発症から神経症状発現まで年限がかかり、平均6.5年といわれている。片麻痺、髄膜刺激症状、小脳症状、錐体路症状など多彩である。精神症状をみることもある。眼病変を欠くものに多いといわれる。
●副睾丸炎:男性患者の約1割弱にみられる。睾丸部の圧痛と腫脹を伴う。
3. 診断
主症状がすべて出現したとき、診断はそれほど難しくないが、ときに、診断の困難なことがある。そのようなときは、厚生省研究班の診断基準を参考にする(表2)。症状の現れ方によって「完全型」「不全型」「疑い」と診断する。
慢性で遷延する。網膜ぶどう膜炎の視力の予後は悪く、眼症状発現後2年で視力0.1以下になる率は約40%といわれている。中枢神経病変、動脈病変、腸潰瘍の予後は不良である。