多発性硬化症


 多発性硬化症 multiple sclerosis,MSは、非化膿性、再発性の白質脳脊髄炎で、脳や脊髄の白質を侵す髄鞘破壊性の炎症(脱髄炎)である。
 病因や脱髄の機序は不明であり、臨床的に中枢神経系のいくつかの部位に多発することを特徴とする。

頻度

 かつて我が国には多発性硬化症は存在しないのではないかといわれていたが、現在本邦での多発性硬化症有病率は人口10万人あたり、2〜4人といわれ、世界的にみて発生は低いとされている。
 北欧や北米では患者数が多く、とくに緯度が高い国ほど、有病率は高くなる。
 我が国における地域差をみてみると、やはり北海道、東北地方に多く、鹿児島、沖縄では少ないようである。
 年齢別では若年成人に多いとされている。男女比は1:1.7で女性にやや多いようである。

臨床像

 我が国における全国調査によると、発病様式は、

  急性発症  47%
  慢性発症  33%
  亜急性発症 20%

 といわれている。

 神経症状に先行する全身症状は約半数の例で認められており、頭痛、発熱などがみられる。しばしばみられる神経症状には次のようなものが挙げられる(表1)

1. 視力障害

 急性発症の視力障害がみられる。これは一側または両側の視神経炎や球後視神経炎によるもので、白や黒はよく見えても、赤、緑などの色覚が侵されることが多いといわれる。
 視神経炎や球後視神経炎が慢性化すると、視神経萎縮や耳側蒼白といった眼底所見を呈する。病変が進行して失明に至ることもあるが、一過性視力障害で治癒することもある。

2. 眼症状

 内側縦束が侵される内側縦束症候群(MLF症候群、核間性眼筋麻痺)が有名である。両側のMLF症候群が若年者でみられた場合、多発性硬化症の疑いが強いといえる。
 動眼、外転、滑車脳神経の病変により複視を訴えたり、脳幹や小脳の障害で眼振をみたりすることもある。

3. 運動麻痺

 皮質脊髄路の障害により運動麻痺をきたすが、痙性対麻痺の型をとることが多いようである。突然起こる場合や慢性に進行するものなどさまざまである。

4. 感覚障害

 躯幹、下肢、顔面、上肢にしびれ感、冷感、異常知覚を訴える。深部知覚、痛覚、触覚、温度覚の順に侵されていく。
 特徴的なものとしてLhermitte徴候がある。これは頸部を前屈すると、背部や下肢あるいは手指に電撃様しびれ感を生じる現象で、頸髄の後索や後根の障害を意味する。

5. 運動失調

 小脳が侵されて断綴性言語、失調性歩行、企図振戦、躯幹失調が起こる。

6. 膀胱直腸障害

 尿失禁、頻尿、尿閉はよくみられるが、排便障害は少ないようである。

7. その他

 有痛性強直性痙攣は多発性硬化症の特徴的症状である。これは急に手足を動かすと、肘と手首で屈曲し、中手・指節関節と近位指節間関節で伸展または屈曲する姿勢を生じ、疼痛を訴える現象をいう。1分以内に消失する。

検査所見

 本症に特異的な検査成績はないが、髄液に多少特徴的所見がみられる。
 髄液のγグロブリンは増加し、とくにIgGの総蛋白量に対する比率(IgG ratio)が高値を示す。またγ領域に2〜数本の明確なband(oligoclonal band)を認める。
 最近、MRIが臨床応用されるようになり、脱髄斑を認めることが診断に有用となった。

予後

 発作をくり返すたびに神経後遺症が重なってゆき、運動機能の障害が高度になっていく。
 生命の予後は合併症、とくに感染症によって影響される。

 


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