スモン


 スモン患者の疫学的調査からのスモンのキノホルム病因説が椿教授によって提唱されたのが、昭和45年8月であった。同年9月、キノホルム販売中止および使用見合せの行政措置がとられた。この措置以来、スモンの新発生は激減し、現在では、本症の新しい発症はなくなっている。一方、スモン調査研究協議会の疫学班(重松部長)による全国的な調査によっても、また動物にキノホルムを投与してスモンの神経系病変の再現に成功した実験(立石教授)によっても、スモンのキノホルム病因説は確定するにいたった。

頻度

 スモンの発症はいずれの年齢でも起こり得るが、成人以後に多く、10歳以下の小児には稀である。男子よりも女子に多い。外国におけるスモン発症の報告もあるが、その数はきわめて少ない。
 一般にキノホルム剤の1日服用量の多いほどまた服用期間の長いほどスモン発症率が高い傾向がある。しかし個人差もあり、比較的少量、短期間のキノホルム剤服用で発症をみた例もあり、逆にかなりの量の服用でも発症しなかった例もある。

臨床像(表1)

1. 腹部症状

 腹部症状としては、劇烈な腹痛(麻薬の使用を必要とすることも少なくない)、鼓腸、便秘、下痢、イレウス様症状などがみられる。神経症状に先行して出現するが、ときにはほとんど同時に現れることもある。

2. 神経症状

 多くは日または週の単位で急性または亜急性に発現し、慢性に発症することはない。初発症状は下肢の異常知覚であることが多い。

1)知覚障害

 本症の必発神経症状であり、かつもっとも患者を悩ませる主要症状は知覚障害である。対称性で、下半身ことに末端部ほど強い。多くは足裏または足指に初発し、数日の間に上行する。
 知覚障害の分布と強さは常に末梢に行くほど強い。
 深部感覚(位置感、振動感覚)の障害が著しい場合もあり、このような例ではロンベルグ徴候が陽性である。

2)運動障害

 一般に知覚障害よりも目立たないことが多いが、中等症または重症になるとほとんど全例にみられる。軽度の下肢筋力低下、歩行時、階段昇降時の障害の程度のものから、全く下肢不動(完全対麻痺)の重症にいたるまで、その程度には差がある。
 上肢の運動障害は、重症例を除きあまり見られないのが普通である。

3)視力障害

 スモン発症後ややおくれて出現するか、再燃の際に見られる場合が多い。初期に中心暗点、色覚異常を訴えることもあるが、次第に全体の視力低下の症状が両側に現れる。最重症の場合は完全に失明状態におちいる。視力障害の明らかな場合は、眼底検査で視神経萎縮が証明される。

4)膀胱・直腸障害

 重症例では排尿・排便障害、ときには尿失禁状態もみられる。

5)脳症状・精神症状

 発病初期あるいは再燃の時期に意識障害、けいれん、注意力散漫、構音障害、嚥下障害などの脳症状、精神症状または脳神経症状が一過性に出現することがある。キノホルムの中毒性脳症状と考えられている。なお脳神経領域で、眼筋麻痺、顔面神経麻痺、聴力障害を起こすことがないことは本症の特徴である。

 慢性に経過し、全治することは軽症の場合を除き稀である。とくに頑固な知覚障害は、そのレベルや程度は多少軽減しても後遺症として存続するのが常である。

 


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