大動脈炎症候群 aortitis syndrome は若い女性にみられる特異な動脈炎で、我が国で頻度の高い病気である。大動脈とその主要分枝に炎症性狭窄が起こるので、橈骨動脈の拍動が消失して脈が触れなくなる。いわゆる「脈なし病」といわれる病気がこれである。
本症の原因は不明である。自己免疫機序が関与しているという説が有力である。
我が国が世界でもっとも多いといわれている。インド、中国などアジア諸国でもみられ、他に、ソ連、メキシコ、南アフリカでも少なくないようである。
我が国での全国調査では、都道府県別発生分布にはとくに地域差はないことがわかった。男女比は1:8〜9と女性に圧倒的に多い病気である。発症年齢は20歳代がもっとも多く、ついで30歳代、40歳代のようである。
大動脈や分岐幹動脈など弾性型動脈が侵される。大動脈弓から下行大動脈にかけて好発する。とくに腕頭動脈、頸動脈、鎖骨下動脈の分岐部に多いようである。
病変は外膜から進行し、中膜がもっとも強く侵される。動脈壁全層が肥厚し、内腔は狭窄にて閉塞する。
本症によって起こる症状は、動脈内腔の狭窄、閉塞による末梢領域の虚血性変化と種々の原因によって起こる高血圧が主なものである。
一般に発症は潜在性で気づかないことが多く、健康診断で「脈なし」を指摘されて診断されることもしばしばである。
1. 全身症状
発熱、全身倦怠感などをみることがある。
2. 動
めまい、頭痛、視力障害を訴える。
3. 鎖骨下動脈虚血症状
上肢のしびれ感、脱力感、冷感、重いものをもつと疲れやすいなどである。
4. 腹部大動脈・腸間膜動脈虚血症状
腹痛、下痢をみることもある。
5. 脈拍欠損
橈骨動脈の閉塞で「脈なし」となる。左側に多いようである。
6. 血圧異常
上肢血圧は左右差がある。腎動脈狭窄、大動脈縮窄、大動脈壁の弾性低下、大動脈弁閉鎖不全(上行大動脈拡張による相対的不全)などにより高血圧を呈する。この高血圧は予後の上で重要な因子となり、脳出血、心病変を招来する。
7. 血管雑音、心雑音
動脈狭窄による血管雑音が頸部、鎖骨上窩、肩甲骨間背部、腹部(臍部周辺)などで聞かれる。収縮期雑音である。大動脈起始部拡張による大動脈弁閉鎖不全では拡張期雑音が聴取される。
8. 眼底所見
乳頭周囲に動静脈吻合がみられるが、これは花環のようにみえるので花環状吻合という。本症の最初の報告者高安右人はこの眼底所見について報告したので、これを高安眼底という。
9. 動
頸動脈洞圧迫により徐脈を呈する。そのほか血圧下降、過呼吸、上を向くと失神、めまいをみることもある。
大動脈炎症候群の症状出現頻度を表1に示す。
白血球増加、軽度の貧血がみられる。赤沈亢進、CRP陽性、高γグロブリン血症など通常の炎症所見を呈する。
血漿レニン活性上昇が多くの例でみられる。
心電図ではしばしば左室肥大がみられ、ST・T異常を伴うこともある。
胸部X線上、心陰影拡大、大動脈拡大、下行大動脈の辺縁不整、肺血管陰影撮影異常、肋骨侵蝕像などをみることがある。
動脈造影は本症診断上重要である。動脈の狭窄、閉塞、拡張、動脈瘤などがみられる。
診断確定後10年生存率は約80%といわれる。死因は心不全、脳出血、心筋梗塞、腎不全などが多いとされている。