天疱瘡


 皮膚および粘膜に水疱が多発し、これが容易に破れてびらんを形成する疾患が天疱瘡(pemphigus)である。原則として内臓を侵すことはないが、適切な治療を行わないと、拡大して死に至る。
 水疱を作る疾患は天疱瘡以外にもあるので、鑑別をすることが大切で、それには病理組識学的診断が重要となる。
 また、患者血清中で、表皮(上皮)細胞間物質と反応する自己抗体(天疱瘡抗体)を証明することも診断には重要である。
 中年以降に好発し、性差はない。

臨床像

1. 尋常性天疱瘡

 皮膚に水疱が初発することもあるが、はじめ口腔粘膜に多発することもある。水疱はまもなく破れ、疼痛性びらんとなる。数か月後には全身の皮膚に拡大する。
 口腔粘膜に初発したときは、通常の再発性アフタ性口内炎と間違えることもあるが、天疱瘡では、水疱が破れてびらんとなり、治癒傾向に欠しく、拡大していくことで容易に区別できる。
 水疱、びらんのない健常の皮膚部に力を加えてこすると、水疱ないしびらんができる。これをニコルスキー現象(Nikolsky)というが、この現象は天疱瘡に限らず、表皮剥離をきたす疾患、たとえばLyell症候群または中毒性表皮壊死症(TEN)でもみられる。びらんは治療を加えないと、なおも拡大し、互いに融合して広範囲になり、ついには死に至る。

2. 増殖性天疱瘡

 外陰部、そ径部、腋窩部などの間擦部位で、びらん面が乳頭状に増殖するものという。悪臭を伴う。尋常性天疱瘡との間に移行があるといわれている。

3. 落葉状天疱瘡

 頭部、顔面、胸部、背部などの脂漏部位に直径3mmぐらいまでの小さな水疱が多発し、破れてびらんを形成する。まもなく痂皮、鱗屑を附着するようになる。そののち全身に拡大し、葉状の落屑がみられるようになる。悪臭を伴う。
 尋常性天疱瘡と異なり、粘膜を侵されることは少なく、また幸いなことに生命に対する予後もよいとされている。

4. 紅斑性天疱瘡

 落葉状天疱瘡の限局的あるいは亜型と考えられ、シネア・アッシャー症候群Senear Usher syndrome)とも呼ばれる。落葉状天疱瘡と同様の病変が脂漏部位にのみとどまり、全身にひろがることはない。顔面にできたとき、ときに蝶形紅斑様を呈しSLEの皮疹と間違えることがある。
 紅斑性天疱瘡も粘膜を侵すことはほとんどなく、予後も良好である点、落葉性天疱瘡と類似する。

検査所見

 生検による病理組識学的検査と血中の天疱瘡抗体の証明が重要である。

1. 生検

 組識学的にみると、病変部表皮細胞間の細胞間橋が消失し、その結果、細胞表面が平滑となって丸味を帯びる。これを棘融解というが、そのため細胞間の連結がなくなり、水疱が形成されるわけである。
 尋常性天疱瘡や増殖性天疱瘡では、水疱が表皮内基底層直下で形成されるが、落葉状天疱瘡や紅斑性天疱瘡では表皮内角層下でみられる。なお、ちなみに記すと、ヘルペスや水痘などのウイルス性水疱は表皮内有棘層で水疱が形成される。
 生検が行えないようなときには、水疱蓋を破り、その底の細胞をかき集めて、塗抹標本を作り、棘融解を証明することもある(Tzanck試験)。

2. 天疱瘡抗体

 表皮細胞間物質に対する血中の自己抗体を天疱瘡抗体と呼ぶ。正常皮膚あるいは粘膜(重層扁平上皮)を抗原として蛍光抗体間接法で行う。この血中抗体価は一般に病状と平行するといわれている。
 また患者の生検皮膚を用いて蛍光抗体直接法で染色すると、表皮細胞間に免疫グロブリンIgGの存在が証明され、これが天疱瘡抗体であると推測される。同時にしばしば、補体の沈着も認められる。

診断

 次の4項目に該当するとき、天疱瘡と診断される。

1.慢性、難治性の水疱、びらん、痂皮の多発。

2.Nikolsky現象陽性。

3.病理組識学的に棘融解性の表皮内水疱形成。

4.患者血清中に天疱瘡抗体を証明し、病変部表皮細胞間にIgGの沈着をみる。


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