劇症肝炎 fulminant hepatitis は急速に肝不全症状に陥る肝炎で、意識障害(肝性脳症)を伴う予後不良の疾患である。
我が国では年間約3700例の発生があるといわれている(1972年)。これは急性肝炎の約2.2%に相当する。
欧米では劇症肝炎は急性肝炎の1%以下といわれている。
性別では男女ほぼ同数にみられるが、男性では50歳代がもっとも多く、女性では20歳代、ついで50歳代が多いようである。
ウイルス性によるものが圧倒的に多く、我が国では70〜90%を占めている。
そのうち、B型肝炎によるものが約50%を占め、非A非B型肝炎によるものが約30%、A型肝炎では約10%といわれている。
また薬剤によるものも約10%程度みられる。
これに対しアメリカでは、ハローセン麻酔剤、英国ではparacetamol大量服用(自殺企図)が原因となっている症例の多いことが特徴である。
1. 精神神経症状
肝性昏睡は本症の必発の症状であり、また重症度を知る上で重要である。肝性昏睡は通常5段階に分けられる。
昏睡T度は昼間眠っていて夜間不眠を訴える睡眠リズムの逆転、あるいは周囲に対する無関心などの症状を呈するが、ふつうはあとから“あの時期がT度であったか”と気づくことが多いようである。
昏睡U度は日時、場所、人物に対する見当識の障害がみられたり、計算、書字などの障害がみられたりする。羽ばたき振戦はこの時期にみられることがもっとも多いとされる。
昏睡V度になるとほとんど眠った状態になるが、外的刺激に対しては反応して目をさます。ときに譫妄状態になり、暴れたりする。
昏睡W度は完全な意識の消失であるが、痛みに対しては反応する。
昏睡X度になると、すべての刺激に対して反応しなくなる。
劇症肝炎のうち、経過の早いものでは意識障害発生から1時間以内に昏睡X度に陥ることがある。遅いときは数日以上たってX度に至ることもある。軽症例ではU度あるいはV度くらいまでで進行しないこともある。2. 自覚症状
劇症肝炎は急性ウイルス肝炎あるいは薬剤性肝障害にひき続いて起こるので、食欲不振、悪心、嘔吐、全身倦怠感などがみられる。急性肝炎で無関心状態がみられたときは、昏睡T度の可能性があるので、劇症肝炎への移行に注意する必要がある。
黄疸はほとんどの例でみられる。3. 身体的所見
肝の縮小が重要な所見である。肝性口臭も約半数にみられる。
腹水は経過の遷延する例ではみられるが、急激な経過をとる場合は認められない。
頻脈(100/分)、呼吸数の増加、血圧下降などがみられるが、これらは急性肝炎ではみられないので、鑑別に役立つことがある。
1. 血液学的検査
好中球増多を伴う白血球増加がみられる。血小板の減少をみることがあるが、これは播種性血管内凝固症候群(DIC)によることが多いようである。
2. 血液生化学検査
血清ビリルビン値は経過の遷延する例で著明に上昇する。GOT、GPTも発病初期には高値となるが、重篤化とともに低下することが多いようである。ですから急性肝炎で上昇していたGOT、GPTが急速に下降したときは注意しなければならない。コリンエステラーゼ(ChE)、コレステロール、アルブミンも肝での合成障害のため著明に低下する。
劇症肝炎の重症度判定でもっとも有用なのは、プロトロンビン時間(PT)である。PTが40%以下を示すことが診断の条件となっている。
その他、低血糖、Na、Clの低下、アンモニアの上昇などがみられる。3. 脳波
肝性昏睡とともに脳波にも異常がみられる。その主なものは、徐波化、θ波およびδ波の出現、三相波の出現などですが、これはとくに劇症肝炎に特異的な所見ではない。
4. 画像検査
超音波検査により肝の縮小を認める。腹部CTスキャンでは肝の縮小とともに壊死部のlow densityを認める。
劇症肝炎の診断基準を表1に掲げる。
治療法の進歩に伴って本症の予後も多少は改善されたが、それでも現在なお生存率は30%以下であり、予後不良の疾患といえる。
一般に非A非B型よりB型のほうが生存率が高いといわれている。