ハンチントン舞踏病 Huntington's chorea は慢性進行性の舞踏病様不随意運動と痴呆を主体とする神経変性疾患である。家族内に発症者が多く常染色体優性遺伝することが特徴である。
本症は1872年に米国の George Huntington による舞踏運動を特徴とする疾患として報告されてきたが、臨床的、病理学的な面から一疾患単位であることがわかり、現在ではハンチントン病 Huntington病と呼ぶことが多いようである。
本症の遺伝形式は常染色体優性遺伝であり、病的遺伝子をもっていればほとんど100%発症する。つまり表現率100%ということで、突然変異の頻度は極端に少ないといわれている。
本症の病的遺伝子座は第4染色体短腕上にあり、その特異配列が証明されている。
有病率は人種により異なり、欧米では人口10万人あたり4〜7人と比較的多い疾患とされているが、東洋人、アフリカ人ではその数十分の一位といわれている。我が国では人口10万人あたり0.4人ときわめて少ないようである。
本症でみられる知能・精神障害は大脳皮質の広範な萎縮にもとづくものであり、舞踏運動を起こす病理変化は、線状体とくに尾状核の萎縮であると考えられている。
病期が進むと大脳白質を含めた脳全体が萎縮する。
正常人の線状体(尾状核と被殻)の神経細胞は、90%が小型細胞で残り10%を大型細胞が占めるが、本症では小型細胞の脱落とグリアの増生があり、側脳室は拡大する。
本症発症に関する最近の研究は脳内アミン代謝と錐体外路症状との関連で検討が行われている。本症は舞踏様運動を主徴の1つとするが、その点では無動症を主徴とするパーキンソン病と対照的に考えられる。
本症で主として脱落・変性する線状体細胞には、元来、黒質や淡蒼球に線維を送るγアミノ酪酸(GABA)を神経伝達物質とする抑制性ニューロンと、やはり同じ部位に線維を送るP物質(substance P)を神経伝達物質とする興奮性ニューロンがあり、本症ではそのいずれもが変性する。また、線状体内で短い線維をだすアセチルコリンを神経伝達物質とする介在ニューロンも部分的に変性を起こす。
興味あることは、パーキンソン病のとき変性するドーパミンを神経伝達物質とする黒質・線状体ニューロンはハンチントン舞踏病ではまったく病変がなく、正常に働いている。
本症の臨床症状は神経症状と精神症状に2大別される。
1. 古典型
本症の90%以上を占め、もっともふつうにみられるものである。
発症年齢は40歳前後がもっとも多く、60歳ではじめて発症する例もあり、少なくとも70歳までは発症する可能性がある。このことは遺伝の有無を判断するとき重要なことである。男女差はない。
神経症状は舞踏運動で代表され、速い不随意運動で、発現部位はさまざである。舌うち、口すぼめ、しかめ面、頻回の目のまばたきなど顔面筋や舌筋の不随意運動のほか、首ふり、肩すくめ、腕ふり、腰ゆすりなど四肢近位部や体幹部の不随意運動をみることもある。
病気の初期では、これらの運動がいかにも自然で、たんなる癖のように見えることがあるので注意しなければならない。
精神的緊張によって不随意運動は顕著になるので、診察するときは足ぶみをさせながら質問すると、よく観察できる。不随意運動は睡眠中は消失する。
経過とともに不随意運動は増強し、本来の随意運動が妨げられ、ともに言語障害、嚥下障害がみられる。
他の神経学的所見としては筋のトーヌスが低下する。
精神障害としては知能低下と人格障害がみられる。初期には計算力や判断力の低下、記銘力障害がみられ、末期には痴呆となる。
人格障害としては感情の易変性、易刺激性、怒りっぽくなるなどの性格変化がみられる。病期が進むと自発力低下、無関心、無為となる。ときに自殺企図、犯罪行為も認められ、社会的にも注意を必要とすることもある。2. 固縮型
本症の5〜10%にみられる。筋固縮rigidityを呈し、パーキンソン病に似た病像を呈する。
3. 若年発症型
20歳以前に発症したものすべてを含む。半数以上は古典型を呈するが、残り半数は固縮型ではじまる。このとき若年性パーキンソニズムと診断されることがあるが、家系内に古典型のいることで診断される。
不随意運動は振戦、ミオクローヌスてんかん発作などで、舞踏病様症状を呈することは少ないとされている。急速に痴呆が進行し、10年以内に死亡することが多いようである。
脳CTスキャンで、尾状核の萎縮を伴う側脳室の拡大および年齢不相応な大脳皮質の萎縮を伴う大脳溝の拡大を認める。
しかし、これは本症に特異的でないことに留意すべきである。
本症は一般に進行性の経過をとり、10〜15年で感染症、嚥下困難に伴う呼吸障害などで死亡する例が多いとされている。
とくに若年発症の固縮型は経過が早く予後不良である。