ウェゲナー肉芽腫症 Wegener's granulomatosis は、鼻、肺、腎症状を三主徴とする原因不明の疾患である。これまで生前の診断は難しく、死後剖検で本症とわかる例も少なくなかったのだが、最近ではこの病気に対する認識も深まり、また治療法の進歩により予後も改善されるようになった。
厚生省特定疾患調査研究班の報告によると1973年から1983年までの間に本症は265例が認められ、男女比はほぼ同数、20〜50歳代に多いといわれている。
真の病因は不明である。本症では最初に上気道病変がみられることから、上気道を介した原因物質の侵入による抗原抗体反応の関与が想像されるが、明らかではない。
最近、好中球の細胞質に対する抗体anticytoplasmic antibody(ACPA)が発見され、自己免疫機序の関与が強く示唆されている。
ウェゲナー肉芽腫症は広い意味では血管炎症候群の中に含まれ、結節性多発動脈炎(PN)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA)などと並んで病因論的にも重要な地位を占める病気である。
鼻・肺・腎の症状が3徴triasである。
全身症状として発熱、全身倦怠感、体重減少などをみる。呼吸器症状を呈する前に、感冒様症状をみることもある。1. 鼻症状
鼻閉、鼻出血、悪臭を伴う膿性鼻汁がみられる。通常の局所的治療に抵抗して難治性である。しばしば急激に鞍鼻となることは、本症の特徴とされる。これは肉芽腫性病変により、鼻中隔が破壊し欠損するために生じるものである。
鼻、咽頭症状は約85%の患者にみられるので、多くの患者はまず耳鼻科を受診するようである。2. 肺症状
感冒様症状にはじまり、咳嗽、喀痰、血痰をみる。ときに胸痛を呈することもありますが、胸水をみることは少ないようである。
病理学的にもっとも多いのは、中下肺野に好発する肉芽腫性炎症による結節性病変である。大きさはさまざまで、小指頭大から手挙大に至り、中心部が壊死に陥り、壁の薄い空洞を形成することがある。3. 腎症状
初期には無症候性蛋白尿、顕微鏡的血尿の程度であるが、病期が進むと蛋白尿が増して腎機能が低下する。
4. 眼症状
鼻腔の肉芽腫性病変が眼窩内に増殖性に浸潤して、眼球突出、視力障害を生じる。一方、血管炎による上強膜炎、ぶどう膜炎、視神経炎などを起こし、ときに失明に至ることもある。
5. 耳症状
おもに片側の内耳炎を起こし、耳漏、耳閉、耳痛を呈する。
6. 気道症状
咽喉頭、気管、気管支の肉芽腫性病変により、嗄声、乾性咳嗽、労作時の息切れをみる。ときに気管切開を必要とする気道狭窄を起こすこともある。
7. その他
全身性の血管炎として、心症状、中枢神経症状、皮膚症状、筋症をみることもあるが、PN、AGAに比してその頻度は少ないとされている。
ウェゲナー肉芽腫症の臓器別罹患頻度を表1に掲げる。
1. 赤沈亢進、CRP陽性、高γグロブリン血症、貧血、白血球増加
2. 蛋白尿、血尿
3.リウマトイド因子陽性(約60%)、免疫複合体高値陽性
4. 好中球細胞質抗体陽性
1985年に報告された新しい自己抗体で、本症に特異性が高いことが認められた。蛍光抗体間接法で調べるが、本症で特異的な染色パターンは明輝性大顆粒蛍光像であるといわれる。本抗体は活動性とよく相関する。
5. 画像検査
鼻、眼、耳、気道の肉芽腫による占拠性病変を知るために、X線写真、CTスキャンが有用である。
胸部X線では中・下肺野に孤立性、もしくは多発性の結節性陰影が見られる。6. 生検
鼻粘膜、経気管支鏡肺生検(TBLB)、腎生検により確診をえることができる。
巨細胞を伴う肉芽腫性病変を証明することが大切で、ときに血管炎の混在がみられることがある。
従来より予後不良の疾患といわれていたが、サイクロフォスファマイトの導入により、予後は著明に改善されるようになった。
早期診断による早期治療が予後に大きく影響するといわれている。
死因は呼吸不全、腎不全、感染症によるものが大部分である。