シャイ・ドレーガー症候群(Shy-Drager症候群)は起立性低血圧、排尿障害、陰萎などの自律神経症候を中心とし、これに種々の中枢神経症状を伴ったものである。
40〜60歳の中高年者に発症し、50歳代にもっとも好発する。男女比は3〜5:1で男性に多いとされている。
自律神経症状の責任病巣としては、迷走神経背側核、Th1〜L2の脊髄中間外側核、S2〜S4の仙髄副交感神経核が考えられる。
本症の剖検例で病変部位をみると、被殻、淡蒼球、黒質、青斑核、橋小脳路、小脳皮質、迷走神経背側核、下オリーブ核、脊髄前核、Th1〜L2脊髄中間外側核、S2〜S4の仙髄副交感神経核など多岐にわたる部位に変性、萎縮性病変が認められる。
このように自律神経系にのみ病変が限局するのでなく、多系統に変性、萎縮病変がみられるため多系統萎縮症(multiple system atrophy)の名称で総括することがある。その意味ではオリーブ橋小脳萎縮症や線状体黒質変性症と共通の系統に萎縮性病変をもつが、臨床的な特徴で区別される。
自律神経症状が緩徐に潜行性にはじまり、次第に多彩かつ顕著になる。さらに錐体外路症状、小脳症状も加わり、進行していくのが特徴である。
1. 自律神経症状
早期からみられ、著明な起立性低血圧が症状の中核となる。立ちくらみ、めまい、進行すると失神をきたすようになり、ときに失神に伴い痙攣発作をみることもある。
男性では陰萎、排尿障害ではじまることも多いといわれる。そのほか発汗障害、体温異常、便秘、Horner症候群など多彩な自律神経症状を呈する。
本症にみられる自律神経の症状は交感神経系と副交感神経系の双方にわたり、中枢から末梢に及び、その意味から全自律神経系異常Pandysautonomiaと呼ばれる。2. 小脳症状
運動失調と筋緊張低下がみられる。一般に下肢のほうが上肢よりも強く、その程度はまちまちである。
3. Parkinson症状
Parkinson病と同様の筋強剛、寡動、振戦がみられる。症状は一般に両下肢からはじまり上行する。線状体、黒質系の病変によると考えられる。
4. その他の神経症状
Babinski徴候、腱反射亢進などの錐体路症状をみることがある。物忘れがしばしばみられ、嗄声、夜間の強いイビキもみられる。
本症の症状出現頻度を表1に示す。
1. 自律神経機能検査
自律神経機能検査で次の異常がみられる。
(1)Shellong起立検査:20mmHg以上の起立性低血圧がみられる。このとき反応性心拍増加がみられない。
(2)血中ノルアドレナリン値:臥床時、血中ノルアドレナリンは低値を示し、健康人にみられるような起立に伴う上昇がみられない。
(3)ノルアドレナリン静注負荷試験:低濃度のノルアドレナリン静注で、正常ではみられない高度の血圧上昇とその持続時間の延長を示す。
(4)心電図R-R間隔の変動:変動が固定化し低値を呈する。
(5)薬物点眼試験:交感神経、副交感神経の障害をみる。
(6)発汗試験:温熱によっても発汗の低下をみる。
(7)排尿機能検査:無緊張性膀胱、球海綿体反射の欠如をみる。
2. 脳CTスキャン、MRI
脳幹とくに橋および小脳の萎縮、第4脳室拡大などがみられる。
病像は進行性で、とくに起立性低血圧のため患者は臥床したままとなる。合併症を起こし、多くは10年以内に予後不良となる。