特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)


 器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こした疾患である慢性肺血栓塞栓症のうち、肺高血圧型とはその中でも肺高血圧症を合併し、臨床症状として労作時の息切れなどを強く認めるものをいう。

頻度

 本邦における急性例及び慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は、欧米に比べて少なく、米国の約1/10とされている。

病因

 本症の正確な発症機序はいまだ不明である。静脈血栓の素因としては、アンチトロンビンIII欠乏症やプロテインCおよびS欠乏症などの先天性凝固異常症、抗リン脂質抗体症候群などが知られているが、素因の明らかでない症例も含め、血栓が溶解されずに残存する機序が病因として重要とされている。

臨床像

本症に特異的な臨床症状はない。労作時の息切れはもっとも高頻度に見られ、反復を繰り返す症例(反復型)では急性肺血栓塞栓症に類似した突然の呼吸困難、胸痛を主訴とすることが多い。一方、反復の明らかでない潜伏型に属する例では、徐々に労作時呼吸困難が増強してくることが多い。このほか、動悸、咳そう、失神などもみられ、肺高血圧の進行により右心不全症状をきたすと、腹部膨満感や体重増加、下腿浮腫などがみられる。

治療

 内科的治療法としては、長期間の抗凝固療法に加え、再発予防の意味で下大静脈フィルターの留置も有効とされる。また、低酸素血症が著明な症例も多く、在宅酸素療法を含めた長期酸素吸入療法の併用および右心不全の軽減のため、利尿剤の投与なども行われる。本症は、労作時の息切れなどが強いため、日常生活が大きく制限されるばかりではなく、その予後も不良であり積極的治療が必要となる。内科的療法にても改善が得られない場合には、外科的治療(肺血栓内膜摘除術)の適応を検討する。本手術は、高度の技術を要する手術であることから、設備の整った施設において本法に熟達した心臓血管外科医により行われることが望ましい。

予後

 本症の予後は肺高血圧の程度と良く相関し、肺動脈平均圧30mmHg以下の症例は10年生存率100%となっている。一方、肺動脈平均圧が30mmHgを超える症例では、以前の報告では5年生存率30%と極めて不良であったが、最近では在宅酸素療法、抗凝固療法の普及もあって5年生存率50-60%と改善している。


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